〜落っこちる〜!〜
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- 記憶をたどりながらの日記なので前後したが、ついに、真夏、陣痛はやってきた。
- それも微弱陣痛というやっかいなもので、10分間隔のお腹の痛みが断続的に3週間続いた。
- おかげで、産院にかけこむこと二回。
- 一度は産院が妊婦一杯で産院近くに住んでいる私は自宅に帰された。
- 自宅でうんうんうなって夜も眠れないときを3日続けた後、涙声で、ほんとに痛いんですが、と言ったら、
- 電話の向こうの助産婦さんが、おいで、と言ってくれた。
- そして、夫婦そろって、入院。
- あれっ?なんで夫まで入院なのか。
- 夫は夏休みをとってくれてずっと付き添ってくれたのである。
- 夜昼ずっと付き添ってる夫をみて、かわいそうに思った院長が、特別に夫婦そろって寝泊まりできる部屋に案内してくれたのである。
- たまたま、出産間近の妊婦さんが一人もこない閑古鳥状態に入っていたからしてくれたサービスである。
- でも、一緒に寝るなんてことできやしない。
- 私は入院してからずっと汗だくになってめまいしながらずんずんと刺すような痛みに夜中中こらえていたのに、夫は横で簡易ベッドでがーがーいびきかいて寝てるんだもの。
- 猛烈に腹がたって、「奥さんが一大事のときに居眠りとはなんだあ!このことは一生おぼえていてやる、絶対に絶対に許さないから!」と叫んで寝ている夫をぶったたいた。
- そしたら、夫、転げ落ちてまた寝た。
- そりゃ、夫も看病疲れで眠くもなる。
- だが、おまるの上に座ったようなポーズでまくらをかかえて、ひたすら、助産婦さんのくれた呪文「今あったかいお湯の中につかっていま〜す、ほ〜ら、あたたかい、ずぶずぶ」とイメージして夜中を孤独に過ごすのはまことにつらかった。
- そんなにつらいのに、子宮口が開かないものだから困った。院長先生に、これ以上待っていても赤ちゃんも疲れてしまうので、帝王切開するか?と言われたが、断った。
- お腹切られるのは嫌だった、痛そうだもの。
- じゃあ陣痛は痛くないのかっていうと痛い。
- 仕方なく、二度子宮に傷をつけて子宮口が開くようにした結果やっと二日後、陣痛が5分間隔になった。
- 次に便秘していると困るということで、浣腸された。
- これには参った。
- 何も出ず(だって飲まず食わず3日はたっていた)、トイレから這って廊下に出て倒れた。
- 助産婦さんにかかえられて陣痛室にもう一度はいる。
- それでも、陣痛間隔が縮まらないのでついに、陣痛促進剤の点滴をうった。
- すると、みるみるうちにひっーひっふーの息づかいが荒くなった。
- まだ、時間がかかるから昼飯でも食べて元気つけときなさい、と言われ、促進剤をうつ直前にむりやり食べたのがよかったのか、がんばりが効く。
- 汗がじゃーじゃー出る。
- まだいきんじゃだめよ〜と言われたのに、大便したいような感覚でいきみたくなった。
- その途端、ぼん!という音とともに破水した。
- それからが速い。
- 急速に呼吸が荒くなり、大便のでかいのがおしだされるように足の間に降りて行く。
- 思わず、出ちゃうよ〜!!!と叫んだ。
- 助産婦さん、叫んだ。まだよ?!え?あらもう頭がみえる。
- 私、夫はどこ?!連れてきて〜、落ちちゃう、落っこちる〜!!!!!と、叫びつつ、分娩台に大至急うつるため、がにまたでかに歩きして台にのった。
- 助産婦さんは、まだ落っこちないわよ、と言ったはずだが、1分もたたないうちに、大便、いや、赤ん坊の頭は押し出された。
- トイレの詰まりをひっこぬくような道具を片手にしている院長先生の姿が私の足の向こうに見えた。
- (出てこないときにすっぽんと頭にくっつけてひっぱり出すための準備。)
- 赤ん坊とおぼしき両足をぐいぐいとひっぱりだそうとする御年70の助産婦さんの姿が見えた。
- ひえ〜と思った途端、一瞬の静寂のあと、おんぎゃ〜という泣き声がした。
- そして、なんとまあ、おにぎり型の頭をした真っ赤なしわくちゃ赤ん坊がへその緒をつけたまま、私の顔の横に
- やってきた。
- それまでの陣痛、分娩の痛みや疲れがふきとんだ。
- すかさず手足何本とチェック。大丈夫だった。
- 不安もふきとんだ。
- 「ようこそ、ゆりちゃん、この世界に」がはじめてかけた声だった。
- その後、1kgもあったレバーのような胎盤をみせてもらい、赤ん坊を出すためにちょきんと切った会陰を縫って、また産湯につかったばかりの赤ん坊を抱かせてもらった。
- 胸に吸いつくかと思ったが、赤ん坊も生まれるのに疲れすぎたのか、吸い付くことなく、居眠りしてしまった。
- 夫も抱っこして満面の笑みだった。夕方4:52、まるで、働いている人達の交代(退社)時間を考えて誕生してくれたような感じだった。あともう少しすれば私の誕生日といっしょだったのにな、と夫は笑った。
体重3240g身長50.5cmの女の子、優理子の誕生である。
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