運と努力と才能

娘たちへ贈る言葉


努力にも2種類あります。

一つは苦痛を伴う努力。

一つは苦痛を伴わない努力。

昔ナブラチロワがTVのインタビューで、「ここまでの成績をあげられたのは、やはり才能があったからですか?」 と聞かれ、「才能ではなく努力の結果です。あえて才能と言うのなら、努力する才能に恵まれていたということでしょうか。」 と言っていました。

この答えは実に的を射ていて、「努力の結果成功した。」と言う人は皆、「努力する才能」=「普通の人にとっては苦痛な勉強や苦痛な練習を苦痛と思わないでやってのけられる才能」 の持ち主だということです。

将棋が楽しくて楽しくて将棋の勉強なら苦痛どころか楽しくてしょうがない。という人に、将棋が嫌いで将棋の勉強は苦痛以外の何物でもないという人が努力して将棋の勝負で勝てるでしょうか? 絶対無理だと思います。

お金儲けも通常の仕事も勉強も同じことです。

普通の人にとっては苦痛だけど自分にとっては苦痛どころか楽しい勉強、楽しい練習を思う存分やってみてはいかがでしょうか?

その結果が実を結ぶかどうか、社会に必要とされるかを先に考えると、苦痛な努力になり、思うような実力の向上にもなりません。

好きなことを懸命にやっていれば、結果は後から自然に付いてくるものです。

たとえそれで結果が出なくとも、それはまさしく「運がなかった」ということに他なりません。

結果が出たとしても「努力した自分が偉いのだ」などと他人にも同じ努力を強要するのではなくて謙虚に「運が良かっただけです」と言っていればいいのです。


さて、ここから少し蛇足を付け加えます。

これは私が今作っているプラモデル、2018年にル・マンで優勝したTOYOTA TS050です。

このプラモデルを買ったのは、プラモデルのプロ、タミヤ模型のカスタマーセンターのおじいさんが電話で「TS050は『こんなプラモデルどうやって作るの?』というくらい難しいよ。」と言ったので、興味本位で買ったら本当にめちゃめちゃ難しくて、組立説明書の最初の1ページのたったの2つの部品の塗装に3週間も掛かりました。一時期はもうこのプラモデルを作るのをやめようかとか捨てようかと思うくらい、このプラモデルを作るのが嫌になりました。その後、カスタマーセンターのおじいさんに相談しました。回答内容を抜粋します。

---------------------------------------------

またトヨタのル・マン優勝車と申しますと、”TS050”でしょうか。お電話でもお話させて頂きましたが、こちらの方が更に難易度が高いキットとなります。練習用としましては好都合かもしれませんが、相当の覚悟でお臨みください。 (小職でしたら、製作を避けたいキットです。) 誰でも最初から”上手い”訳ではありません。小職も小学校の頃、お客様と同様に、それなり作れるという勢いでエアーブラシを買い込み、”よっしゃー!”とやってみたところ、最初からボロボロ状態。レベル社製 1/32 F-4 ファントム でしたが、模型作りの難しさをとことん教えられ、完膚なきまで叩きのめされて挫折しました。しばらくはその残骸を持っていましたが、蘇生するわけでもないのですから、やがて処分に至ります。(見るのが辛い・・・) その後、自分の”尺”にあった、1/72 飛行機に転じます。ここからは、以前に書きました通り、ひたすら”修行”です。若いころはパワー感と持続力が違います。疲れません! ちなみに、小職は修行の甲斐あって、高校時代にある飛行機のコンテストで金賞をもらう事が出来ました。弊社ではなく、ハセガワ様が主宰されていた、当時最も権威のあるコンテストでした。全国数千の参加者があり、高校部門でしたので、”プラモデルの甲子園で優勝”した感覚でした。(そのネタで、タミヤに潜り込みました。)

---------------------------------------------

勉強なんか一切しないでプラモデルばっかり作ってプラモデル作りを極めたら、プラモデルメーカーに採用され、本当のプロのプラモデル開発者になってしまったというお話です。

この話を聞いて、TS050については、やっと考え方が少し変わりました。今までのプラモデルは短くて2週間〜長くても2ヶ月で完成させていました。TS050は今までとは全く別物だとわかり、「プラモデルのプロを目指しているわけでもなし、気が向いたときに少しずつ進めよう。何年掛かってもいいや。」と開き直り、気楽にちょっとずつ楽しんで作ることが出来るようになりました。

次に私が今までに他人と比べて際立って高い成績を収めた話をします。

小学校6年生のときに広島市共通学力試験にて国語、算数、理科、社会、各25問、100問中99問正解で間違えた1問は社会の問題で、それも、わかっている問題、知っている問題のポカミスだけで広島市全体で2番目の高得点を取りました。(満点も何人かいました。)これは何も私の頭が特別良かったわけではありません。ただ単に学校の勉強が面白くて、塾の勉強も面白くて一切苦痛だと思うことなく勉強していただけの話です。

小学校6年生のときに走り幅跳びで学校全体の2番目の距離を飛んで、学校代表として広島市の陸上競技会に出場しました。これも私に特別に走り幅跳びの才能があったわけでもなく、特別に身体能力があったわけでもありません。小学校3年生の頃、なぜだか知らないけれど、休み時間や放課後にひたすら走り幅跳びの練習をしていた時期があったからです。普通の小学生は休み時間や放課後に走り幅跳びの練習なんかしません。だから体は小さかったのに学校で2番目の距離を飛ぶことが出来たのです。

高校3年生のときの全国模擬試験で物理の偏差値が70を超えていました。これも物理好きな友達の影響で、休み時間も日本史の授業中もひたすら物理の問題を解いていたからです。

大学卒業後、300人中5人しか通過しない広島市上級職員の筆記試験に受かり、最終面接まで進みました。これは普通の怠け者の大学生であれば4年間の定期試験前だけ必死で丸暗記して勉強して卒業する内容を定期試験前に全く暗記することなく7年も掛けて完全に理解して卒業したからです。(残念ながら最終採用枠は3人だったので、面接が大嫌いな私は最終面接で落ちましたが。)

プロのゲーム開発者としてnamcoに半年勤めて辞めた後、namcoのファミリージョッキーという競馬ゲームで世界ランキング2位まで上りつめました。これもそのゲームの才能があったわけでもなく、ひたすら同じゲームをやり続けていただけの話です。

次に私の苦手なことの話をします。

まず、英語。これがなぜ苦手か?簡単に言えば中学1年生の時の学校教育が悪かった。私に合わなかった。というだけです。中学1年生の1学期の中間試験と期末試験はいずれも満点に近い点を取れました。間違えたのは発音記号の問題だけでした。発音記号というわけのわからない意味不明なものがそもそもの学校教育の大間違いです。間違えた問題について、正解していた友達に発音して貰って何度も聞きましたが全然わかりませんでした。未だに発音記号は全くわかりません。それから中学1年生のときの夏休みの宿題が大間違いというか私には全然合いませんでした。その夏休みの宿題とは「単語を100個暗記して来い」でした。暗記というものが私は本当に嫌いです。理数系の勉強において、暗記などする必要は全くなく、数式の意味を理解すれば自然と記憶に残るものです。だから意味もわからず暗記しろという中学1年の夏休みの宿題でつまずいた私は未だにTOEICの点数は250点。何も考えずにランダムにマークシートを塗ればとれる点数しか取れません。でも、プログラミングのソースコードは英語で書けます。わからない単語はGoogle翻訳を使いますが、とにかく英語でプログラミングのソースコードを書けます。そこはちゃんとプロとして必要な英語力は備わっているのです。

英語の勉強方法については、君たちの従弟のやり方が一番正解なのでしょうね。小学生の頃からひたすら英語の映画を見ていた。それだけです。彼は中学生のときに英検2級を取ってその後は英検というものに興味をなくして受けていませんが受ければ余裕で1級に受かるでしょう。もしかすると今の彼の英語力は、プロの翻訳者として英語の仕事をし続けている(TOEICも900点超えの)君たちのお母さんより長けているかもしれません。

さて、君達が本当に好きなことは何ですか?ゲームですか?映画ですか?ゲームのプロなんかいないという話をしたことがあるかもしれませんが、私はプロのゲーム開発者として仕事をしていた経験上、ゲームのプロがいることを知っています。ゲームのプロになりたければ、ポールトゥウィンという会社に入社して下さい。その会社に入れば毎日ゲームで遊べます。ゲームで遊ぶことが仕事になります。まさしくプロゲーマーです。なお、そのプロゲーマー集団よりも、私達プロゲーム開発者はゲームが上手かったです。何しろ世界ランキング2位ですし。

最後にもう一度、本当に好きなことを一生懸命やって生きて下さい。