- ◆うかっちゃったよ◆
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- 私が仕事についたのはかれこれ10数年前、バブル絶頂期である。
- 実を言うと私ははじめ仕事につく予定になかった。
- アメリカの大学院にでも行って・・・なんて留学を夢見ていた。
- でも、父が亡くなってしまったので仕事を選びざるを得なかった。
- それでも、就職ができなかったら留学するぞとひそかに思っていた。
- だから、ことごとく、公務員試験、希望した銀行の面接に落ちたときは、
- まじに腐って、留学の資料を集め出していた。
- ある銀行の人事の人に噛みついたら、
- 「あんたはこの業界向きじゃない」とまで言われてたから、もう宛はないと思ってた。
- そんなさなか、大学の学生食堂で、早々に希望の会社に就職が決まった友達に言われた。
- 「私さ、受からなかったら、ここ受けようと思っていたんだけど、かわりに受けない?違う業界もいいわよ」
- と、とあるメーカーの案内のカタログを差し出した。
- 私は、スペイン語を専攻していたので、その会社がそういう言語が使えるところかチェックした。
- そしたら、組織図に中南米部って、書いてあるじゃないか。
- せっかくだから、受けて見ようか。もう落ちるのは慣れっこだ。
- というわけで、開き直りで、そのメーカ−を受けた。
- 人事の人に「スペイン語できるんですよね〜。じゃあ、話してもらおうかな、いや、いいや。上手いのわかってるから」といわれたときは心底あせったけど。
- だってスペイン語を専攻した人がみんなぺらぺらってわけじゃないもの。
- そのくせ、スペイン語を使ってスペイン語圏の人達に御社の製品を売ってみたいです、
- なんてえらそうに言うんだから困ったもんだ。
- あと、あなたのチャームポイントは何ですか?と聞かれたときは、
- 何言ってんだこの人?と思いつつも「耳です。イヤリングにこってます」と
- これまた、答えになっていないような答えをしたっけ。
- いったい何を診ていたんだろう?
- こんな調子でのほほんと面接受けていたので、落ちるはずと思って、留学資料を本格的に読み始めていた。
- そしたら、電話がかかってきた。
- 「採用することが内定しました。ついては・・・」
- 私は受話器の向こうの声を聞きながら、頭が真っ白になってしまった。
- そして、電話を切ると母にこう言ったのだ。
- 「うかっちゃったよ。どうしよう?」
- で、次に言った言葉は、「そうだな、とりあえず、社会人になってみるもんだよね。」
- 今の世の中、新卒が就職することがとても大変な時代だというのに、いや〜なんてことを言ったものだろう。
- でも、当時の私としては、たまたま友達に誘われ、
- たまたまでかけた会社に、たまたま受かってしまったたまたま尽くしだったのだ。
- これがご縁っていうものか?
- まさか、そのメーカーにたまたま10年以上いることになるとまでは予想しなかった。
- 夫にこの話したら、俺だってインターネットで検索して
- Aではじまる最初の会社にずっと勤めることになるなんておもわなかったよ、だと。
- うーん、ご縁って不思議なものである。
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